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【読後感想】あきらとアキラ【池井戸潤】

 

アキラとあきら (徳間文庫)

アキラとあきら (徳間文庫)

 

 

 

アキラとあきら (徳間文庫)

アキラとあきら (徳間文庫)

 

 池井戸潤さんの作品は好きだ。学生時代に「オレたちバブル入行組」で初めて池井戸作品に出会って以来、10作以上は読んでいる。

 

池井戸作品の特徴といえば、

・序盤から必ず絶望的な状況に追い込まれる主人公

・しかしそれにもめげず仲間たちと結束して最後にはひっくり返してしまう勧善懲悪のストーリー構成

・悪い奴らの中にも自分たちのやっていることに対して迷いがあり、主人公の人柄に心打たれて仲間に入る

などが多くの作品に共通する。

 

また、著者が作家になる以前はメガバンクで勤務していたこともあって、銀行がよく登場する。

もともと銀行のことを隅々まで知り尽くしているだけあって、銀行という組織の悪い側面がとてもよく描写されている。

 

「銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げるビジネス」というセリフはディテールを細かく変えてはあるが、多くの作品に登場する。(そのため、銀行はたいてい悪役として出てくるが、ときたま悪役だとしてもかわいそうに思うくらいこき下ろされているときもある。。)

 

さて、本題に入ろう。

 

こちらはそんな池井戸作品の最新作。ぼくは持ち物の削減を進める一環で、本はなるべくキンドルで買うようにしている。

 

この作品、町工場の息子と大手海運会社の御曹司と、対照的な境遇で生まれ育ってきた同い年のふたりの物語なので、題名がそのまま内容を表しているとも言える。

 

序盤では零細企業の息子・瑛(あきら)と、東海郵船の御曹司・彬(あきら)の物語は個別に進んで行く。

 

父親の工場が倒産し、借金取りに追われ転校せざるを得ない苦難の人生を歩む瑛と、東海郵船という大手企業の社長の息子という階堂彬はまるで正反対の人物として描かれている。

 

ぼくは主人公の瑛でなく、むしろ階堂彬の方に共感するところが多かった。

 

東海郵船ほどの企業ではもちろんないが、ぼく自身も中小企業の経営者を父に持っており、小さい頃から将来的には会社を継ぐようにとなにかにつけて言われて育った。

 

子供ながらに周りの友達の家庭よりは裕福な生活ができていたと思ってはいたが、父の経営する会社に入ろうとはまったく思えなかった。その理由は

・朝7時に家を出て、夜11時ごろに帰ってくる生活の繰り返し

・平日だけでなく土曜も当たり前のように仕事

・本人は仕事の虫のためそれを当たり前だと思っている

というように、ハードワークな父が理解できなかったことが大きい。あまりにワーカホリックな父のため、一緒に遊んだ記憶もあまり残っていない。

 

まだまだ書けそうだが、いよいよ本格的に脱線してしまうので本題に戻るが

 

階堂彬も、社長を務める父とそれぞれグループ会社のトップである二人の弟との諍いを間近で見ていて会社を継ぐことに嫌気が差していた。

 

その後の展開は実際に読んでもらえればと思うのだけれど、個人的な感想を言うと、瑛と彬が交わる場面はそんなになかったような気がする。

 

クライマックスでは傾いた会社と、それに融資を通すべく稟議に奔走するバンカーという協力関係はできていたが、もっとガッツリ(敵同士としてとか)やりあうのかと思っていたので、そこは少し残念だった。

 

この階堂家の登場人物から学べるのは、変なプライドというものが如何に適切な意思決定を妨げるかということ。

 

負けたくない、自分のことを認めさせたい、負けたということを認めたくないという気持ちが強すぎて、空回りしてしまう。

 

兄と比べられ続ける人生で見返してやる機会を伺っていた弟龍馬、自らの失策の穴埋めのために未熟な竜馬を担ぎ出し、結果的に潰してしまった叔父たち。

 

負けず嫌いは経営者に必要な資質ではあるけれども、同族会社ということで抑制もまったく効かなかったという点が怖いところでもある。

 

ちなみに野暮な疑問だが、物語の最後に瑛が高校のときに転校してしまった亜衣と結婚して子供までできてたんだけど、どんな経緯があったんだろうね。

 

まあ細かいことはいいか。

 

終わり