かもがわ総研

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備長炭の生産者から聞いた苦しい内情

備長炭という言葉は聞いたことがあると思います。私は地元ではBQQ隊長ですので、昔から火起こしは慣れたものです。

先日備長炭の生産している方とお話する機会があり、興味深い話をたくさんきかせていただいた一方、内情はなかなか苦しいようです。

炭の種類

炭にはいくつか種類があり、燃えやすさや燃焼時間によってグレードが別れています。

備長炭→白炭とも。着火しにくいが燃焼時間は最も長い。高価。

・木炭→黒炭とも。着火しやすいが、すぐに燃え尽きてしまう。安価。

・オガ炭→オガ屑を圧縮しもの。備長炭に似て燃焼時間は長い。

 

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もともと白炭技術というのは、平安時代弘法大師空海)が遣唐使として中国の長安に留学し、持ち帰った技術のうちの一つということです。白炭技術というのは中国からいただいた文明であるわけです。

で、備長炭の産地としては和歌山県紀州備長炭)、高知県(土佐備長炭)、宮崎県(日向備長炭)があり、土佐と日向は紀州備長炭の分派だそうです。

和歌山は漁業も盛んであるため、高知や宮崎を訪れた際に和歌山以外にも原料であるウバメガシがたくさん採れることを知った人が移り住み、備長炭作りを発展させてきたそうです。

こうして日本では、ウナギの蒲焼きや焼き鳥などを主な用途として広く親しまれてきました。

ちなみにコンロが普及してからも炭火焼が廃れないことには、赤外線の量が関係しています。

炭火は熱すると赤外線を出します。なんとなく身体をじんわりあっためてくれるみたいなイメージを持っている方も多いと思いますが、それです。

赤外線は電磁波の一種なので、BBQグリルや七輪を扇いでもおかまいなしに飛んできます。人の声も超音波も通信電波も音波の仲間なのです。

コンロの炎で焼くときの熱のことを「対流熱」と言います。炎によって熱せられた空気が食べ物を加熱していきます。

これに対して、炭火が出す熱のことを「輻射熱」と呼び、これは食べ物が持つ旨味を閉じ込めてくれる、ということで炭火で焼いた方がおいしく感じるというのは理にかなった方法なのです。

備長炭業界が直面する問題

紀州備長炭の現場では、農業や林業などと同じように高齢化、およびそれに伴う後継者不足の問題が頭をもたげています。若い世代の人はどんどんと第一次産業ではなく、第三次産業(サービス業)に流れていっています。

ごくたまに都会の生活に疲れて移住してくる人がいて、話を聞かせてもらった人の身近なところでも、神奈川県や静岡県から和歌山に移り住んできて炭作りをしているそうです。

炭作りというのは肉体的にかなりハードな仕事だということがわかりました。

まず山に原木を切りに行きます。備長炭の原料となるウバメガシというのは西日本の太平洋側の暖かいところに自生する木です。

しかし大きく育つまで30年ほどかかるため成長が遅く、傾斜のきついところに生えるという性質があります。

地形が急峻なところだとトラックが深くまで入って行けず、人力で運び出さなければならないのです。

そして麓まで持ち帰って窯焼きの工程に移ると、窯から取り出す時は作業者が1000度以上の熱に晒されるため、慢性的な低温やけどが職業病として避けられないそうです。

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この環境の現場に、新たに飛び込みたいという若者を増やすのは至難のように思えます。

そもそも原木がなくなってきている?

そして、備長炭の業界が直面しているもう一つの問題が、そもそも原木となるウバメガシの絶対量が減ってきているということです。

ウバメガシは成長が遅いので消費のスピードが速いと原木は減る一方となってしまいます。

まだ山の頂上などには残っていることは残っているそうなのですが、上述の通り急峻な地形にしか生えないので、高齢化した業者では取りに行けず困っています。

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そのためウバメガシ以外での備長炭作りを検討しているところですが、ウバメガシと同等の品質(燃焼時間や硬さ)を満たすことはなかなか難しいようです。

花粉症持ちの私としては、国内のすべてのスギ・ヒノキを切り刻んで炭にしてもらいたいところですが、備長炭としては品質は及ばないということです。

山積みの問題にどう対処するか? 

現地の森林組合も会合を繰り返して、対策を練っているようですが、私が当事者ならどうるかと考えてみました。

1、ベトナムなど東南アジアから労働者を募る

2、東南アジアから原木を輸入、製炭のみ国内で行う

3、ウバメガシ、というか備長炭以外のブランドの確立

生産者から話を聞いて初めてわかったのですが、備長炭には焼く以外にもたくさんの用途があるということです。

例えば、浄水機能。備長炭の表面にはたくさんの穴が空いていて、そこにバクテリアが住み着いています。水槽の中に入れれば水の汚れをバクテリアが分解してくれるし、さらにそのバクテリアが中の魚の餌にもなるので一石二鳥の効果があります。

他にも、備長炭には他の炭ではかなわないほどの硬度を誇り、独特の金属音が備長炭であることの証明にもなります。この金属音を生かして木琴のような楽器を作ることもできるそうです。

さらに、炭を練りこんだ商品開発も以前からあります。美容用フェイスマスク、洗顔料、靴下など、備長炭の汚れ吸着のイメージをうまく生かしたマーケティングだと思います。こうしたさらなる用途開発を進めていくためにいろんなメーカーと共同で研究開発を行った方がよいかと思います。

備長炭は長く安定して燃焼することが価値の源泉となってきましたが、これまでと異なる用途向けに炭を作るのであれば、必ずしもそうである必要はありません。

メーカーが要望すればサンプルを提供して、いろんな実験を行ってもらう。私の経験からも言えることですが、長く経験を積んできた人ほど、頭が凝り固まっているので、業界に明るくない人の方が得てして新しい発見があるかもしれません。