かもがわ総研

ベトナムでもがく中間管理職です。営業、マーケ、法務、採用なんでもやってます。

社内飲み会に行きたがらない先輩が並々ならぬ覚悟だったことを知ったときの話

ぼくには韓国人の先輩がいる。歳も2つしか離れておらず趣味も合う。ネットフリックスの全裸監督はダメ作品だとか、ジムでトレーニングするならここがいいですよとか、とにかく色んな方面で趣向が似ているので色んな話をする。

その先輩をKさんとしよう。ベトナムで働き始めて3年ほどになるKさんには既婚で同じく韓国人の美人な奥さんがいる。そのKさんがあまり社内飲み会に参加されないのには、愛妻家だからとか、恐妻家だからだよとか色んな話がされていた。

Kさんは傍目には社内の複雑な人間関係をうまく乗りこなしてやっているように見える。どんな時も笑顔を絶やさず、冷静に淡々と仕事をこなしていく様はローカルの部下からも信頼が厚い。

しかしKさんは社内飲み会どころか顧客との接待にもめったに行きたがらない。もちろんゴルフのコンペにも行かない。やはり韓国人なのでアルコールには強いのだが、飲み会にはあまり関心を示さない。

社内政治はうまいのにも関わらず、そういうところが偉い人たちからの歓心を買うことができず、「あいつは営業としてどうなのか?」「上司の飲みに付き合わないなど言語道断」といった不満もしばしば聞こえてきた。

そういった中で珍しくそのKさんから「今晩のみに行きませんか」という誘いがあった。普段上司との飲み会にはなかなか行かないKさんが自ら誘ってくるなんて滅多にない機会だと思って、二つ返事で承諾した。この機会にいろいろ聞いてみようと決心した。

聞くと、奥さんの友達が韓国からやってきているので食事に行くので、あなたの方も勝手に食べてきてと言われたからだそうだった。かわいい。

歳も近いので気を遣う必要もなく、お酒もかなり進んだ。どういったいきさつかは忘れたが、奥さんの話になった。

Kさんは元々はベトナム駐在にきたくはなかったそうだ。断ろうと思い、当時まだ結婚したばかりだった奥さんに相談してみた。しかし奥さんは駐在は大きなチャンスだから行ってみるべきだと逆にKさんを説得した。

そうした経緯があり、Kさんは結局は辞令を受けてベトナムに赴任することになる。それまでは奥さんも韓国内で仕事をしていたので、奥さんも職を辞してベトナムに付いてきたことになる。

Kさんの奥さんはベトナムに来てしばらくは、日本で言うところの専業主婦をしていた。駐在員というのはご存じの方も多いと思うが多忙を極める。顧客企業の管理職層以上とのコンタクト、本社との意思疎通、毎月の数字のキャッチアップ、部下の管理など日々の業務を挙げていければキリがない。

これが多くの駐在員が結婚した状態で赴任する大きな理由を占める。当然共働きだった夫婦は通常奥さん側が仕事を諦めて夫をサポートする方に回るのだ。

夫婦ともに不慣れな土地で暮らすのは同じだが、奥さん側の方が負担が大きいことが多い。働く夫側は仕事でいろんな人とふれあいがあるが、奥さんの方は孤独になりがちだからだ。Kさんの奥さんは韓国の窮屈な人付き合いにも少し辟易していて、ベトナムにたくさんある韓国人社会に進んで入ろうとはしなかった。韓国人街からも離れたところに住んでいる。

そのため余計に他人とのコミュニケーションが少なくなり、一時はうつ病と診断されたそうだ。Kさんは自分の都合で慣れないベトナムに連れてきて、その挙げ句、妻を追い詰めてうつ病にさせてしまったことで自責の念に苛まれた。

実はKさんとぼくは生い立ちのところで共通点がある。幼少期に父親が仕事で多忙すぎて話す機会がほとんどなかったことで、とてもさみしい思いをしていたということだ。他にも同じ境遇に人に会ったことはいるが、そういう人は自分が家庭を持ったら家族との時間を最も大切にするようになる傾向がある。

Kさんもそれと同じく、激烈に働いて自分を大学まで出してくれた父親には感謝しながらも、自分は妻や子供には同じ思いはさせまいと強く決意していた。

その一件以降、Kさんは妻との時間を何よりも最優先するようになり、社内の飲み会にもほとんど顔を出さなくなったということだ。「自分は営業として不適切だと言われていることも分かっている」「韓国に帰任になったらもう営業はしないと決めている」「総務とかに配置換えしてもらえなければ他の会社で仕事を探す」と開き直っている。

人間、開き直れば案外強いものだ。自分が今持っているものに執着するほど、それを失うのが怖くなり、しがみつくようになってしまうのだ。

ぼくは、冗談や皮肉は一切抜きでKさんの生き方に感動した。心からKさんと奥さんを応援したいと思った。何よりも残念でならないのは、そうした人を生きづらくさせてしまっている会社、そして飲み会やそれに付随するマナーをことさらに重要視する文化から抜け出せない日本人に対して失望せざるを得ない。

先日ツイッターで荒ぶってしまったのも、この件で少し情緒的になっていたからだった。

ぼくたち20代や30代の価値観やライフスタイルが急速に変化して行っているにもかかわらず、40代以降の管理職の人たちは相変わらず昔ながらの価値観から変われないでいるように思える。何か見えない世代の断絶が横たわっているのだろうか。

嫌がる社員を無理矢理連れて行くのはナンセンスだし、それをしなくても会社が回っていくように工夫できるようになったら、そして、どんな人でも胸を張って生きていけるようになっていければいいなと思った。